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REPORT

心の奥底と社会を映し出す 優しくて鋭いアートの祭典 MONSTER EXHIBITION 2025

2013年から始まった「MONSTER EXHIBITION」。このイベントは毎年「モンスター」をテーマに、参加するアーティストたちそれぞれが社会や自分の中に存在する「モンスター」を捉え、立体、造形、映像など様々な手法で表現するチャリティアートイベントです。2013年から始まったこのイベントは、ここ渋谷ヒカリエを始め、サンフランシスコ、パリ、ベルリン、バルセロナ、ニューヨークと、発表の場を広げています。

さてみなさんは「モンスター」という言葉から、何を想像しますか? 恐ろしい怪獣でしょうか、それとも自分の中にある不安や葛藤でしょうか。

震災復興支援という強い祈りから始まり、現在はアーティストの支援とチャリティを両立させるサステナブルな活動へと進化した本展。主催者の想いや、今年参加されたアーティスト作品から、この「モンスター展」が放つ、不思議で温かい魅力の正体に迫ります。

 

3.11から始まった、「無力感」を「希望」に変える物語

 

「モンスター展」の始まりは、2011年の東日本大震災に由来します。企画展を主催するキュレーター・庄司みゆ希さんの実家もこの震災により被災し、関係性のあったクリエイターから何かしら支援ができないかという声が届いたことに始まります。

 

「その時、デジタルでモノを作る私たちは、被災状況をニュースで知りながらも、自分たちにどうすることもできない虚しさや無力さを痛感していました」と、庄司さん。



「何かしたいけれど、何をすればいいかわからない」。そんな葛藤を抱えていた多くのクリエイターたちと共に、「自分たちの得意なことで支援をしよう」と始まったのがこの活動の原点です。

 

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現在、モンスター展では、作品の売上の10%がその年に発生した災害の被災地へ寄付され、残りの90%はアーティストの創作活動資金として還元されます。これは単なる被災チャリティイベントではなく、「アーティストが創作を続けられること」と「社会貢献」が無理なく循環する仕組み。

 

「悲しいニュースばかりで心が疲弊していた時期に始まったからこそ、見てくれる人が楽しくなるようなテーマにしたかった」と庄司さん。今年の展示には、厳しい審査を勝ち抜いた最大60名のアーティストが参加。彼らが「モンスター」というテーマをどう解釈し、どう表現したのか。会場には、その多様な答えが溢れていました。

 

2025年のテーマは「原点回帰」。

明るさと温かさを秘めたモンスターたち。

 

2013年から始まったこのイベントは、「モンスター」をテーマに、参加者を変えながら成長を続けてきましたが、その年ごとの社会の空気が作品に色濃く反映されています。

 

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「コロナパンデミックの最中には、閉塞感や内省的な作品が多く見られましたが、今年は、コロナ禍が明けて『元に戻った』という感覚が強いですね。モンスターというテーマから連想される暗いイメージよりも、どこか明るさや温かさ、希望を秘めた作品が多いのが印象的です」と庄司さん。

 

「モンスター」とは、決して忌み嫌うべき他者や怪物だけを指すのではありません。それは時に、自分自身の弱さであったり、社会が抱える矛盾であったり、あるいは、困難を乗り越えるための爆発的なエネルギーであったりします。

今年の会場を包む「明るさ」は、私たちが長いトンネルを抜け、再び世界と繋がり始めた喜びの表れなのかもしれません。

 

「傍観者」としての自分と向き合う

 

会場内で目を引く、鏡(ミラー素材)を使った作品。

作者の〇(マル)ヒロミさんは、社会問題と自身の内面を「モンスター」というテーマに重ね合わせました。

 

「ニュースで、“パパ活”や“トー横”キッズと呼ばれるような、まだ幼い少女たちが社会の波に揉まれている姿を目にします。その状況を生み出している社会そのものがモンスターであると同時に、それをテレビ越しにただ『かわいそう』と同情するだけで、何も行動を起こさない自分自身もまた、モンスターを生み出す一員なのではないか……そう思ったんです」

〇ヒロミさんの作品に使われているミラー素材は、鑑賞者の姿をぼんやりと映し出します。作品を覗き込んだ時、そこに映るのは「傍観者」である私たち自身の姿かもしれません。

 

「大人は本来、子供を守るべき存在なのに、動けないでいる自分への反骨心も込めています」と話するヒロミさん。しかし、その作品は決して重苦しいだけではありません。

描かれているのは、顔のない黒いシルエットの少女たち。これには、ヒロミさん自身の原体験が投影されています。

 

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「私はアトピー性皮膚炎を持っていて、昔は肌が真っ赤になってしまうこともありました。奇異な目で見られるのが辛くて『誰にも見られたくない』と思っていた時、ライブハウスの強い光の中で見るシルエットの方が、本当の自分が見える気がしたんです」

あどけなさや可愛らしさを残しながらも、本心を隠したシルエット。それは、闇の中にこそ生命力や希望、そして「本当の姿」が宿っているというメッセージでもあります。

暗い場所だからこそ、人ははしゃげるのかもしれない。黒い影の中にある光を感じてほしい。そんなヒロミさんの繊細な感性が、見る人の心に静かな問いを投げかけます。

 

「思考」こそがモンスター。考えるより早く描く

「人間の『思考』こそが、モンスターだと思いませんか?」

そう語るのは、グラフィックデザイナーとしてのキャリアを経て、現在は独自のアート表現を追求する寺嶋康浩さんです。

 

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「戦争も環境破壊も、すべて人間が行き過ぎた『思考』や損得勘定で動いた結果、解決できなくなっている。頭の良い人たちが集まっても解決できない問題があるのは、思考が肥大化してしまっているからではないでしょうか」と寺嶋さん。

寺嶋さんは、8年間続けている「コンシャスダンス(振り付けのない、瞑想のような自由なダンス)」の経験を活かし、筆ではなく、直接手に絵の具をつけてキャンバスに叩きつけます。

そうして生まれた作品は、圧倒的な躍動感とエネルギーの塊。

 

きっかけは、イタリアの作家ミケル・バルセロの美術展で見た「考えるより早く描け」という言葉。「普通に描くと、どうしても『うまく描こう』『ここをこうしよう』という思考(=モンスター)が出てきてしまう。だから、音楽をかけ、体を動かし、ダンスをしながら描くんです。そうすることで思考の入る隙間をなくし、直感だけで表現できる」と話します。

 

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興味深いのは、今回発表された作品には「上下左右」が決まっていないこと。展示されている作品を回転させることができ、見る人が好きな角度で止めていいのです。
 

「『こう見るべき』という固定観念もまた、思考の檻ですから。回してみて『あ、ここが好きだな』と直感で感じてもらえればいい。作品の前で、見知らぬ人同士が『私にはこう見える』と会話を始める。そこには否定がありません。そんな、感性だけで繋がれる平和なコミュニケーションの装置を作りたかったんです」と寺嶋さん。

思考というモンスターを手放し、身体と感性を解放する。寺嶋さんの作品の前に立つと、言葉にならない希望や活力を感じるのは、全てを否定しないアートのコミュニケーションがもたらすもののように感じます。

 

交差点としての「場」が、新しい支援の形を生む

「Monster Exhibition(モンスター展)」が、ここ渋谷ヒカリエ 8/で開催され続けていることには、大きな理由があります。

主催者の庄司さんは、「どうせやるなら、人が集まる場所でやりたかった」と話します。

渋谷は、世界中から多様な人々が集まる交差点のような街。アートに詳しい人も、たまたま買い物のついでに立ち寄った人も、外国からの旅行者も、ここでは等しく作品の前に立ちます。

 

「8/(はち)という場所は、アクセスが良く、誰もがふらりと立ち寄れる開かれた空間です。アートは敷居が高いものだと思われがちですが、ここではその境界線がありません。言語が通じなくても、アートを通して表情で感動を分かち合うことができる。それがこの場所の魅力です」と庄司さん。

 

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3.11を忘れないためのチャリティとして始まったこの展示会は、10年以上の時を経て、アーティストたちが自身の表現を社会に問いかけ、来場者がそのエネルギーを受け取り、自分の中にある、または社会にあるモンスターに向き合い、そして次への活力にする「共鳴の場」へと育ちました。

「モンスター」というテーマは、一見怖そうに思えますが、この展示会においては「未知なる可能性」や「内なるエネルギー」の象徴とも言えます。作家たちがそれぞれのモンスターと向き合い、昇華させた作品群は、見る人の心を優しく揺さぶります。アートを楽しむことが、誰かの支援になり、巡り巡って自分の心も救う。そんな温かな循環が生まれる展示会となりました。

 

●INFORMATION

MONSTER Exhibition 2025(モンスター展 2025)
会 期 2025年10月11日(土)〜 15日(水) 11:00-20:00

場 所 8/COURT

料 金 入場無料

主 催  一般社団法人Evolve Art & Design Japan

協 賛:株式会社ツルカメ

https://monsterex.info/2025/

 

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