まず会の始めは参加者の皆様に自己紹介からスタート。
今回の初めて真珠を身につけたという方から、他産地の真珠業界の方、貝ボタンの作り手さんなど…
「使い手」「作り手」「売り手」など、様々な方々にご参加いただいていることがわかりました。
ゲストには、神保真珠商店の杉山知子さん(写真左)、淡水真珠の養殖をしている池蝶真珠の酒井京子さん(写真右)。
琵琶湖が育む淡水真珠「びわ湖真珠」の辿ってきた歴史や、この土地でしか生まれることのない自然がつくる美しい形がどのようにできるのか、また、これから「びわ湖真珠」をどう残していくのかという思いを語っていただきました。
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「びわ湖真珠」の歴史について
まずは、「びわ湖真珠」の歴史について。
「一般的に琵琶湖で真珠が生産されていることをご存知ない方も多いのでは?」と杉山さん。
しかし、1968年の最盛期には年間6トンも生産される滋賀県の一大産業でした!
ではなぜ、あまり知られていないのか?
琵琶湖の真珠養殖の技術で、高価なペルシャ湾の「天然真珠」にとてもよく似た高品質な真珠を育てることができたことから、当時、そのほとんどが国外に輸出されていました。
盛んだった琵琶湖での真珠の養殖業ですが、現在営んでいる養殖業者は全部で10軒ほど。
激減の理由は1988年頃に原因不明の病気で真珠をつくるための貝が大量死してしまったから。
「なので今は、病気に負けない品種改良と、その貝を生産するところから始めなければならなくなった。」と酒井さん。
最盛期には貝専門の養殖業者がいましたが、今では真珠の養殖業者が貝も育てる必要があります。
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池蝶貝の育て方について
こちらは、池蝶貝の幼生(赤ちゃん)の写真。
貝がある程度成長をするまでヨシノボリなどの魚に寄生して成長してゆくため、この時期は貝だけでく魚たちの管理(飼育)も一苦労なのだそうです。
孵化をして魚に寄生し、そこから立派な二枚貝の姿に成長するまでに約半年。
そして個体差はありますが、成体になるのに約3年かかります。
そこから真珠の元となる細胞を貝の中に埋め込む作業(オペ)をほどこし、実際に真珠を収獲することができるようになるのは、またその3年後。
貝の誕生から収穫まで、短くても6年かかるという、とても息の長い年月が必要なのだなと痛感しました。
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真珠のオペ・収穫につて
次は真珠のオペ、収穫について。専門的な技術のお話が盛りだくさん!
「無核真珠」と「有核真珠」の生産の仕方の違い、真珠を貝に作ってもらうために細胞を施す作業(オペ)について詳しく伺いました。
まず、「真珠」とひとくちにいっても、大きく分けて「無核真珠」と「有核真珠」というものがあります。
おそらくみなさんが真珠と聞いて思い浮かべる、綺麗な球体の真珠は「有核真珠」です。
読んで字の通り、真珠貝の体内に真珠の元となる「核」を真珠層を形成する細胞とともに埋め込み、その核に真珠の層重ねていくことで真珠ができます。この核が球体ではなくボタン型や楕円型にすると、真珠もその形に合わせて様々な形になります。
対して「無核真珠」は核を入れず、真珠貝の中に真珠層を形成する細胞のみを埋め込む方法です。
こうする事で人間の意志ではなく、天然の造形美を楽しめる真珠が出来上がります。
もう一つ、びわ湖真珠には大きな特徴があります。それは「ビンテージパール」です。
「これは私の造語なのですが、真珠貝が大量に病死する以前、30年ほど前の最盛期に作られていた真珠のことをビンテージパールと呼んでいます。」と杉山さん。
ビンテージパールの特徴は色に出ます。
品種改良以前の真珠貝がつくりだす真珠は白色をしていましたが、品種改良後病気に強くなった真珠貝はピンクや茶色などの色の濃い真珠をつくりだす傾向があり、ビンテージパールの持つ色味は、今ではつくり出すことができない当時の真珠ならではのものとも言えます。
そのほかにも印象的なお話が盛りだくさんでした。
中でも、とても印象に残っているのは養殖を行う方によってオペに使う道具、施し方、そして真珠に入れる核の形も異なるということです。
「10軒の養殖家がいれば、10通りの受け継がれてきたテクニックや得意分野がある」と言った酒井さんが、私には誇らしげに見えました。
「大変な時期を乗り越えて生き残った養殖家さんたちゆえに、それぞれが工夫を凝らし、試行錯誤を重ね独自の進化を遂げ洗練されたのではないか」と語るのは杉山さん。
真珠業界の一般的に良いとされる基準を目指すのではなく、各々の養殖家がそれぞれの目指すスタイルを突き詰めているお話が印象的でした。
また、杉山さんは「真珠はつくった人の性格が出る」とも。それは形であったり、色味であったり… 杉山さんによるセミオーダーでは真珠を選ぶ際、その真珠から養殖家の方についてまでお話してもらえるので、生産者まで想像を膨らますことができる貴重な機会です。
こんな風に生産者のことをしっかりと伝えながら、それぞれの個性をうまく商品に結びつけてくれる「売り手」の存在が、びわ湖真珠がこれからも続いていくことにとって、とても必要だと感じました。
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d SCHOOL「わかりやすい淡水真珠」を終えて
海外では今でも無核真珠のことを”Biwa” Pearl と呼ばれ、それは必ずしも琵琶湖産真珠を指すのではなく、産地を問わず"無核真珠"の総称として使われることがあるそうです。それはかつて、50年前に日本の琵琶湖で養殖された無核真珠が、世界中で評価されてた時代の名残。そして今も、その技術は失われることなく、酒井さんたち養殖家の人々の手によって脈々と受け継がれています。
しかし、”Biwa” Pearl =「琵琶湖産」の真珠だと思って販売してしまうこともあるそう。今日行われたd SCHOOLなどによって、少しづつですが伝わり、変わっていけば良いなと思います。
杉山さんが最後に話された「綺麗な真珠だけを選りすぐって購入するのではなく、養殖家の方がつくった真珠を全部まとめて買い取るということがポリシー。養殖家さんのお仕事を買う、という気持ちで取引をさせていただいている」という言葉がとても印象的でした。
一部の良い部分だけを買い取るだけでは、びわ湖真珠の養殖を続けてゆくことは困難です。「正当な価値」を作り手の方にしっかりと還元することで、続けてゆくことができるのだという言葉が、当たり前のことかもしれませんが、根本的に大切なことに感じました。
そしてお二人から、池蝶貝の殻をくり抜いて作った「貝ボタン」のプレゼントが!
お二人のお話を伺ってからこのボタンたちを見ると、一つ一つ色味も形も異なり、愛おしさを感じずにはいられませんでした。
d47 MUSEUM 事務局 竹川風花
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【びわ湖真珠アクセサリーがご覧いただける展示はこちら!】
今回ゲストでお越しいただいた「神保真珠商店」によるビンテージパールネックレスなどを、滋賀県代表としてご紹介しています。
LONG LIFE DESIGN 1 -47都道府県の健やかなデザイン展-
2018年12月7日(金)~2019年3月4日(月)
※1月1日のみ休館
入場無料会場:d47 MUSEUM
時間:11:00~20:00(最終入場19:30)
主催:D&DEPARTMENT PROJECT
お問い合わせ:03-6427-230