8/

REPORT

『dオリジナル雁木』から紐解く山口の酒と食の物語

八百新酒造「雁木」と地酒のまえつる
 
山口の酒と食のつづくをたべる会
 

山口県といえば、全国的に知られる日本酒の銘柄を多く生産する地として知られています。そんな山口の地酒の特徴をわかりやすく伝えているのが、山口県下関市にある「地酒のまえつる」で『d design travel YAMAGUCHI』(2013年・D&DEPARMENT発行)の刊行以来、「d47食堂」にて山口の日本酒を楽しむ“立ち呑みの会”や“角打ち”といった、東京にいながら山口の「土地の個性」を感じる機会を提供しています。
そうした中、D&DEPARTMENTの活動テーマの一つである「その土地らしさ」を体現する商品として、「山口らしいお酒」をつくる企画が持ち上がり、D&DEPARTMENT、地酒のまえつる、そして八百新酒造株式会社(山口県岩国市)とのトリプルコラボレーションで『d オリジナル雁木』が生まれました。

01_202507_d-original-gangi_-3114.jpg

 

『d オリジナル雁木』をつくるにあたり、山口らしいお酒を考え、八百新酒造株式会社との橋渡し的な役割を務めた「地酒のまえつる」の前鶴健蔵さん(写真中央)。右は八百新酒造株式会社の製造部部長の眞田雅治さんで、左は営業部部長の中村恵太さんです。本イベントではこの3名を中心に、d47 食堂の清水友麻さんが進行役を務め、八百新酒造株式会社の酒造りへの想い、また『d オリジナル雁木』が生まれるまでの秘話を交えたトークイベントと、山口の料理とともに日本酒を味わう会が開催されました。

 

地酒のまえつる、八百新酒造、D&DEPARTMENTとのコラボレーションで生まれた
オリジナル日本酒「d雁木 辛口純米」を味わう『利き酒の会』
 

02_202507_d original gangi_-3144.jpg

八百新酒造株式会社は、1877年(明治10年)創業の、山口県岩国市の錦川のほとりにある酒造場です。2000年に生まれた「雁木」というブランド名は、川沿いにあった階段状の桟橋に由来しています。
現在は護岸工事のため桟橋はなくなりましたが、創業当時は買いつけた米を上流から船で運び、雁木を使って蔵へと運んでいました。
 
03_202507_d orijinal gangi_-3160.jpg

八百新酒造では、しっかりとした味わいがあり、酸が高めで切れの良いお酒を作ることをコンセプトにしています。昔は寒い時期の3〜4ヶ月で1年分の酒を作る「寒造り」を主としていましたが、現在は設備を整え、1年のうち10ヶ月を酒造りに費やしています。

04_202507_d original gangi_-3151.jpg

酒造りは精米したお米を10キロずつに小分けし綺麗に洗って糠(ぬか)を落とした後、浸漬する「洗米」から始まります。「お米に水を吸わせすぎたり、吸わせなさすぎたりすると、その後の工程で修正するのが難しくなるため、目的に応じた水分量になるようしっかり計測して行なう『限定吸水』は、酒造りにおいて非常に大事な工程」だと製造部長の眞田さんは話します。

 

05_IMG_1223.jpg

吸水させた酒米を、外側は硬く内側はふっくら柔らかな状態になるまで甑(こしき=大型のせいろのような蒸し器)で蒸しあげ、冷ましてから麹室に引き込みます。麹室では、酒米の水分量や品温、温度を調整しながら、種麹を振る作業を行います。酒米の乾き具合を均一にするために、揉んだり、ほぐしたりする作業を何度も繰り返します。

06_IMG_1043-3.jpg

続いて、蒸した酒米を用いて発酵の元である「酒母」造りに。八百新酒造では「普通速醸」という手法を採用しています。仕込んだ酒母を、徐々に温度を上げ下げすることでストレスを与え、強い酵母を選別し増殖していくことで、米の旨みやコクがしっかりした、深みのある濃醇な味わいが生まれます。「時間と手間がかかる作業ですが、より良い、より強い酵母を残すために必要な工程」だと眞田さんは話します。

07_MG_1153.jpg

こうして出来上がった酒母を少し大きめのタンクに移し、麹、掛米(かけまい)、水を加え発酵することで日本酒が生まれます。この工程において、単に素材の分量や温度、湿度を一定にするだけでなく、タンクの大きさや季節など、さまざまな環境の変化で発酵の進み具合が変わります。そのため、神経を集中させて観察する必要があり、そこには杜氏を中心とした蔵人の長年の経験が活かされています。眞田さんは「さまざまな困難がありますが、楽しみながら酒造りに向き合う気持ちを大切にしている」と話してくれました。

八百新酒造で酒造りの仕込みを体験したd47食堂の清水さんによるレポートでは、仕込みの様子が詳しく綴られているので、ぜひ併せてご覧ください。

 

味わいの違いを楽しむ「雁木」テイスティング

八百新酒造の酒造りへの理解を深めたところで、いよいよ雁木ブランドのテイスティングに。今回試飲したのは、ブランドの柱である通年商品の「ノ壱(純米)」「ノ弍(純米吟醸)」に加え、季節限定の「夏辛口純米」と「純米発泡スパークリング(生)」、そして最新のコラボレーション銘柄「d雁木辛口純米(生)2025」の5種類。前鶴健蔵さんが八百新酒造のお二人にそれぞれの銘柄の特徴を改めて伺いながら、味わいの違いを楽しみました。

08_202507_d original gangi_-3215.jpg

前鶴さんは「利き酒というと難しく考えがちですが、実際に飲み比べてみて感じるイメージを好きな言葉で表現して楽しんでほしい」と話します。また、今回は特別に、酒造りに使用されているミネラル分の少ない軟水を「和らぎ水」として用意。この蔵の仕込み水を飲むことで、お酒の間に口をリセットし、それぞれの銘柄が持つ繊細な個性をさらに深く味わうことができました。

09_202507_d original gangi_-3176.jpg

「ノ壱(純米酒)」「ノ弍(純米吟醸)」は雁木の礎ともいえる日本酒です。「どちらも無濾過の生原酒ですが、『ノ壱』はしっかりと素材の米の味を感じられるパンチのあるお酒で、濃い目の味付けの料理にも合いやすい」と前鶴さん。一方、「ノ弍」は香りが華やかで「ノ壱」に比べて少し甘口のお酒。こちらは、お酒の味をメインに楽しみたい時におすすめだとか。

10_202507_d orijinal gangi_-3167.jpg

続いて、夏の季節限定で登場する「雁木 夏辛口純米」「d雁木 辛口純米」そして「純米発泡スパークリング(生)」を飲み比べました。「雁木 夏辛口純米」は瓶詰前に加熱処理(火入れ)が施されることで、常温でも保存が可能です。素材に使用するお米には山口県産の「西都の雫」と「山田錦」を使用しています。

 

11_d gangi.jpg

一方「dオリジナル雁木」は「雁木 夏辛口純米」をベースにしながらも、山口らしさをより色濃く表現したもの。麹米・掛米ともに、山口県産の「西都の雫」を100パーセント使用し、初夏に搾りたてとして発売される「生酒」と、熟成を待って秋頃に発売される「火入れ酒」の二種が発売されます。

「日本酒は敷居が高いと思われがちですが、“山口らしいお酒”として、出汁を使った日本の郷土料理にも相性が良く、スルスルと飲める味わいを追求して完成したものです」と前鶴さんは話します。

 

山口の郷土料理と共に「雁木」を味わい
 
山口らしさの「つづくを食べる会」
 
12_202507_d original gangi_-3267.jpg

続く第二部は、日本の47都道府県の「食文化」を学び、伝えることを目的とした「d47食堂」にて、山口らしさの「つづくをたべる会」が開催されました。

13_料理.jpg

四角い木枠を使って酢飯と色とりどりの具材を何層にも重ねて押し固めてつくる「岩国寿司」(左)や、捕鯨発祥の地である下関でよく食されている甘辛い味付けの「くじらの竜田揚げ」(中央上)、魚のすり身を昆布で包んだ「ほおかぶり」(中央下)、豆腐、大根、にんじんを濃いめの甘辛い味付けで煮た「けんちょう」、瓦の上で茶そばを広げて具材を盛り付けた「瓦そば」(この日は鉄板にて再現/右上)、雁木を使ったムースゼリーなど、山口の郷土料理が続々と登場しました。参加者からは「現地で食べたものよりも美味しかった」と、喜びの声があがりました。

14_202507_d orijinal gangi_-3253.jpg

15_202507_d original gangi_-3299.jpg

地酒を振る舞うコーナーでは「地酒のまえつる」の前鶴建蔵さんと絵梨さんご夫婦、そして「八百新酒造」の中村さんと眞田さんが、それぞれのお酒の味わいの特徴を丁寧に解説しながら振舞いました。

16_202507_d original gangi_-3227.jpg

17_202507_d orijinal gangi_-3317.jpg

「dオリジナル雁木」は、八百新酒造の揺るぎない酒造りの信念と、地酒のまえつるの郷土への深い愛情、そしてD&DEPARTMENTが大切にしている「その土地らしさ」が「つづく」精神を融合させて生まれたものです。本イベントを通じて、参加者は蔵人たちの真摯な姿勢や、歴史に裏打ちされた酒造りの技に触れ、山口の風土と物語を五感で深く体感することができました。
 

 

●INFORMATION
山口の酒と食のつづくをたべる会

日 程 2025年7月13日(日)第一部 16:30~18:00/第二部 18:15~20:30
場 所 d47食堂
料 金 第一部 ¥2,500/第二部 ¥6,000/通し参加 ¥7,500(税込)
協 力 地酒のまえつる、八百新酒造株式会社
主 催 D&DEPARTMENT PROJECT

 

COMMENTS