海を守る工夫、地域を活かすデザイン。SHIBUYA WANDERING CRAFT 2025 ②

REPORT

投稿日:2026年4月29日(水)

渋谷ヒカリエ「8/」で開催された、夏の恒例イベント『SHIBUYA WANDERING CRAFT 2025』。2025年のテーマは「工夫」です。前回のレポートでは、見慣れた日用品や廃材をアートに昇華させるような、暮らしに近い「工夫」の体験をお届けしました。

パート2となる今回は、少し視点を広げて「地球環境」という大きなテーマに向き合います。環境問題と聞くと少し難しく感じてしまうかもしれませんが、海で起きている変化を知り、そこに関わる様々な取り組みに触れることで、私たちが日々「食べるもの」や「買うもの」を選ぶ視点に新たな変化が生まれるかもしれません。

海と暮らす人たちの知恵を知るインスタレーション

 

『SHIBUYA WANDERING CRAFT 2025』の期間中、Creative Lounge MOVが運営するショーケース「aiiima」で開催されたのは、『ウミと、ヒトと。–海と暮らす、人の工夫–』と題されたインスタレーション。海と人の豊かな社会を目指す「UMITO Partners」と、食を通じて持続可能な世界を目指す「P.O.S.T studio」の共同企画として開催されました。

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海水温の上昇や、魚の住処となる「藻場(もば)」の減少など、日本の沿岸で進む環境変化。そんな中で、持続可能な漁業を目指して奮闘する日本全国の漁師さんたちが、日々どのような「工夫」を行っているのかを、映像やストーリーを通じて体感できる展示となっていました。美味しい魚が私たちの手元に届く背景には、自然を敬い、海を守ろうとする人々の温かい知恵が詰まっています。

森と海は繋がっている。広い視点で自然を捉える

 

初日の8月23日(土)には、COURTにて展示を記念したトークイベント「サステナブルなシーフードを選ぶ理由」が開催されました。UMITO Partnersの村上春二さんや岡本類さん、千葉県で自然と共生する場づくりを行うKURKKU FIELDS(クルックフィールズ)の佐藤剛さんらが登壇し、海と森の繋がりについてディスカッションが繰り広げられました。

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例えば、美味しい牡蠣が育つためには、山から川を通じて流れ込む栄養が欠かせないことなど、「流域治水」という、山・川・海をひとつの繋がりとして考える視点が紹介されました。「海で起きている問題は、実は陸での私たちの暮らしとも密接に関わっている」。そう気づかされることで、自然環境全体を思いやる気持ちが自然と芽生えてきます。

私たちの食卓と、地球の未来を繋ぐ「工夫」

 

では、都市で暮らす私たちにはどんな「工夫」ができるのでしょうか。トークの中で提案されたのは、「自分の好きな魚の旬を知ること」や「その魚が今海にどれくらいいるのか(資源状態)を知ること」といった、とても身近な第一歩でした。また、マグロのような食物連鎖の頂点にいる魚だけでなく、その餌となるイワシなどを食べることで、環境への負担を減らすことができるというお話も。

さらに、2022年に、世界における養殖魚の生産量が初めて天然魚を上回ったことから、今後はさらに養殖の重要性が高まることについても触れられました。

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一方で養殖魚には、魚を育てる過程で病気を防ぐワクチンや抗生物質の使用に関する課題に加え、養殖場で使用されている漁具が海に流出することへの環境への負荷、養殖魚を育てるための餌となる水産資源のサスティナビリティなど、様々な課題も抱えています。

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そんななか、上記のような課題をクリアし、
より良い養殖魚を選ぶための指標として「ASC認証」という制度も生まれています。この認証がついている魚は、抗生物質の使用制限などの厳しい基準をクリアし、生態系や環境に悪影響を与えるような素材の使用を避けて生産されている証拠となるため、消費者は比較的安心して購入することができます。

日本の養殖魚の現状では「ASC認証」はこれからの普及を目指す段階ではありますが、私たち消費者が海洋生物の現状や、海と山の繋がりを意識すること、スーパーでの魚選びや、日々の食事の中でちょっとした知識を持つこと……それこそが、未来の豊かな海を守り、美味しい魚を食べ続けるための、私たちにできる一番の「工夫」なのだと気付かされる時間となりました。


土地から湧き上がるように生まれた
47都道府県の「工夫のデザイン」

 

地球規模の課題に対する「工夫」を知ったところで、今度は視点を「日本の土地」に移してみましょう。この企画展では、各地域の風土から湧き上がり、人の営みによって生まれた「工夫のデザイン」にも光を当てています。
「d47 MUSEUM」では、第36回企画展『LONG LIFE DESIGN 4 デザイン物産2025 ー47都道府県の工夫のデザインー』として、日本全国のその土地らしい「デザイン物産」を集めた展覧会が開催されました。

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私たちが普段何気なく目にしている製品や食べものはもちろんのこと、街並みや行事、暮らし方、そして風景などは、その土地に当たり前に存在し、それらが地域の個性となっています。

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例えば、日本一の木彫刻の町として知られる富山県南砺市井波に2023年に誕生したクラフトビールの醸造所「NAT.BREW」もその一つ。 

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井波で「NAT.BREW」を営む元ワイン醸造家の望月俊祐さんは「土着醸造」をコンセプトに掲げ、その土地だからこそ生まれるビールづくりに取り組んでいます。地元の農家が作るリンゴやトマト、南砺市特産の干し柿、山で採れたクロモジなど、富山ならではの多様な素材を副原料に使っているのが特徴ですが、さらにその土地に暮らす人との関わり合い、土地が育んできた歴史や伝統を「工夫」の一つとして盛り込んでいます。

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井波は、日本一の木彫刻の産地ですが、時代とともに欄間などの木彫刻の需要が減少しています。そんな中、その土地ならではの味を追求するNAT. BREWは、井波でつくられた木樽を使った醸造にも挑戦しています。今回、D&DEPARTMENTとの取り組みで、一般参加者と醸造所が一緒になってビールをつくる「d&BARREL PROJECT TOYAMA INAMI(木樽オーナープロジェクト)」が、2025年春に始まりました。

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『SHIBUYA WANDERING CRAFT 2025』の期間中は「d47食堂」にてビールスタンドがオープン。“木樽オーナープロジェクト”に参加し、度々、井波まで足を運んだという参加者の方も、この日を楽しみに来店され、自分たちが関わったビールの味を楽しむ様子が伺えました。


「8/」だからこそ広がる、「工夫」への新しい視点

 

このイベントが、多様な人々が交差する渋谷ヒカリエの「8/」で開催されることには大きな意味があります。買い物や食事の延長線上で、何気なくふらりと立ち寄った場所から、遠い海や森で起きている出来事に思いを馳せることができる。生産者と消費者が物理的な距離を越えて繋がり、お互いの「工夫」を共有できる開かれた場だからこそ、そこに訪れるたびに、新しい価値観に触れ、明日からの行動に視点や行動の変化という「工夫」を取り入れてみようという思いが芽生える。そうして生まれた一人一人の小さな工夫が、やがて大きな変化を生み出すきっかけになるのかもしれません。

INFORMATION

SHIBUYA WANDERING CRAFT 2025
場所 渋谷ヒカリエ8階 Creative Space 8/(8/COURT、8/CUBE(ほか)
会期 
2025年8月23日(土)〜31日(日)11:00 - 20:00
主催 
渋谷ヒカリエ8/、一般社団法人世界ゆるスポーツ協会、ART FRONT GALLERY、Bunkamura Gallery 8/、渋谷⚪︎⚪︎書店
https://www.hikarie8.com/home.shtml

『SHIBUYA WANDERING CRAFT』について
渋谷らしい新しい発見や出会いの場として開催している夏の企画展です。タイトルの「WANDERING」には、wonderful(驚き)とwandering(疑問)の2つの意味を込めています。2014年から「旅」「暮らしの再定義」「本」「渋谷」「DIY」など、毎年さまざまなテーマを設け、新たな発見や価値観を与えてくれる担い手と共に開催しています。ワークショップやトークセッション、展示などを通じて、発見し、考え、交流することを目的とした、8/ならではのイベントです。