土地の記憶をひもとき、未来へつなぐ。祈りから生まれる「えんぎもの」とデザイン

REPORT

「えんぎもの」から考える、“その土地らしいデザイン” の湧き上がり方

投稿日:2026年5月4日(月)
日本各地には、福を招いたり厄を払ったりする「えんぎもの」が数多く存在します。その多くは土地の言い伝えや風習、自然への畏れなど、目に見えない「祈り」から生み出され、暮らしの中で、お互いをいたわり合ったり、拠り所となる支えとして、人々に愛され続けてきました。
 
渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート
 
それら「えんぎもの」は意図的に作られたデザインではなく、自然や他者を思う姿勢から「湧き上がるように生まれてくるもの」。そうした日本各地に点在する「願い、祈り、信じる」デザインから土地の個性を紐解く『47えんぎもの展』がd47 MUSEUMで開催されました。
 
渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート
 
今回紹介するのは、『47えんぎもの展』の関連イベントとして、地域に深く根を下ろして活動するお二人をゲストに迎えたトークイベント。「土地から生まれるデザイン」という概念を、地域の文化や伝統に深く関わる二人のゲストの視点から語る対話の場となりました。

祈りと日常を現代にひらく、二人の実践者

 

渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート

ゲストのお一人は、岩手県遠野市で民俗学をベースとしたさまざまな創作活動や文化振興を行なう富川岳(がく)さん。東京の広告会社を経て遠野市に移住し、400年続く郷土芸能「シシ踊り」の踊り手として獣の面をかぶり活動する傍ら、地域の民間伝承を現代に接続する「民俗学の再起動」をテーマに掲げています。

「遠野は、今を生きる人間だけでなく、神様や精霊、妖怪といった目に見えない存在と共存する世界観が息づく町です」と語る富川さん。「シシ踊り」も単なるパフォーマンスではなく、人と自然の争いと調和を表すものであり、その衣装の造形(鹿の角や龍の鼻など)も、土地との結びつきや人々の願いから生まれたものだと紐解きます。

渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート

もう一方は、岐阜県高山市で工藝店「やわい屋」を営む朝倉圭一さん。築150年の歴史ある古民家を解体・移築再生した空間で、生活の美しさである「民藝(民衆的工藝)」の器や道具を扱うほか、私設図書館や展示室を併設しています。

渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート

また、雪深い地域で自然の脅威を子どもに伝える妖怪「雪入道」の伝承を元にした木彫りの郷土玩具を生み出す活動もされています。
朝倉さんが大切にしているのは、日常の中にある営み。「特別な『ハレの日』だけでなく、ご飯を食べるような『ケの日』の日常をどう後世に繋いでいくか。言葉にならないことでも、僕らは大事なことを本当はちゃんとわかっているのではないか」と語り、「完全に理解しきらないまま理解する」という姿勢で、地域に寄り添い続けています。

「その土地らしさ」とは何か?

 

古くから日本各地に伝わる「えんぎもの」や郷土玩具。しかし現代において、それらは本来の背景や役割を失い、単なるお土産物や「消費される民芸品」になってしまっているのではないか。そんな率直な問いかけから、話題が深まっていきました。
 
「民藝の視点で言うと、観光客向けのものとそうでないものの違いは、『日常の生活の中にそれがあるかどうか』。そして、それが『対話可能であるか』が大切です」と朝倉さん。
 
渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート
 
ただ可愛い民芸品として形だけをなぞったり、一方的な情報として提示したりするのではなく、そこに暮らす人々の息遣いが感じられ、私たちが寄り添える余白があること 。モノローグ(独白)ではなくダイアログ(対話)になるものこそが、本当の「らしさ」だと言います 。
 
渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート
 
また富川さんも「『らしさ』を見つけるには、その土地の民が何を信じ、何を大切にしてきたかという根源を紐解く必要があります」と言葉を継ぎました。えんぎものや伝統芸能の奥には、生き抜くこと、食べること、死者を弔うことといった切実な「祈り」が込められています。「そうした先人たちの目に見えない思いや精神性を探求していくことで、初めてその土地ならではの確かなオリジナリティが湧き上がってくる」と話されました。

伝統は守るものではなく、対話して育むもの

 

それでは、昔から続いてきた「伝統」を、私たちはどう継承していくべきでしょうか。この問いに対し、朝倉さんは「伝統は単に保存するものではなく、対話するもの」と話します。

朝倉さんは「過去の形をそのまま凍結させるのではなく、現代を生きる私たちが完全に理解しきらないまま、それでも寄り添い対話していくこと。伝統は川や山のように常に変化し続けるものであり、治す(Cure)のではなく、癒す・ケアする(Care)という感覚が大切です」と一緒に育っていく関係性を強調しました。

富川さんもまた、伝統は固定的なものではなく、各時代の当事者が「こうしたい」と表現してきた結果の積み重ねだと捉え「だからこそ、今の時代の人々が自分たちの感性で新たな表現を加えることもまた伝統の一部」と話します。

渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート

実際、富川さんは「シシ踊り」を現代のクラブカルチャーや音楽と結びつけるプロジェクトにも挑戦しており、閉じるだけでなく開くことで、未来の世代が故郷に戻ってこられる環境づくりを目指しています。時代に合わせて「再起動」させていくことが、本当の意味での継承に繋がるのだと気付かされます。

「消費」するのではなく、「関係者」を増やす仲間づくり

 

それでは、その大切な文化をどのように継承し、共関者を広げていくのでしょう。

富川さんは、自らが移住者という「よそ者」であったからこそ、地域の人が当たり前だと思っている文化の価値に気づき、外の世界へ翻訳して伝えることができたと振り返ります。移住当初は「どうせ3年で帰るんでしょ」と言われ落ち込んだこともあったと本音をこぼす一方「地元の郷土史を徹底的に学び、教育の場に関わるなど真摯に向き合うことで、少しずつ地域からの信頼を得て、内側へと溶け込んでいった」と話します。そして「外から来た人が、地域を消費するのではなく、知や教育に敬意を払って関わることで関係が変わる」と実体験を振り返ります。

渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート

朝倉さんから投げかけられたのが、「現代社会において、単にものを『消費』していくのではなく、『関係者』を増やしていく視点が必要だ」というメッセージでした。

「今の時代、伝統工芸品やえんぎものを単なる『商品』として消費してもらうだけでは、本当の継承にはなりません。作り手と使い手が対話し、背景にある営みを知ってもらう。一方通行の消費ではなく、見たり聞いたりしたことで考え方が変わるような、双方向の関わりが重要です。今日ここに来て話を聞いてくれた皆さんも、すでに単なる消費者ではなく『関係者』になっているんです」。

文化を一方的に享受して終わるのではなく、関わり合い、共に育んでいくことの重要性が語られました。

渋谷ヒカリエ「8/」で、縦のベクトルを取り戻す

 

終盤、富川さんが語った言葉が、この場に集まった人々の心に深く響きました。

渋谷ヒカリエ8/ 47えんぎもの展 レポート

「現代はスワイプするだけでどんどん情報が入り、AIやSNSで世界が『横』にばかり猛スピードで拡張しすぎています。だからこそ、その土地の歴史や文化、先人の記憶といった『縦のベクトル』をもう一度取り戻すことが、これからの時代を生きる私たちにとって非常に重要だと思うんです。その蓄積された確かなものへ目を向けることで、精神的な安定や生きる感覚が回復する実感があります」。

情報がめまぐるしく行き交う「横の拡張」の象徴とも言える大都市・渋谷。日々を忙しく生きる私たちが、ふと立ち止まり、遠く離れた地域の深い祈りや文化という「縦のベクトル」に触れる。それは私たちの心に、思いがけない安心感とインスピレーションをもたらしてくれます。地域文化を単なる「過去の保存対象」としてではなく、「現代人が生きるための感覚を取り戻す大切な資源」として捉え直す。この視点を持ちながら「えんぎもの」が生まれた地域の個性に目を向ける時、そこからまた新たな世界が開くきっかけになるのかもしれません。

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富川さんが「地域の人間だけでは継承は完結せず、都心部との接続点が必要」と語ったように、ヒカリエ「8/」は、そうした地域のオリジナリティと都市の人々を結びつける大切なハブ(交差点)としての役割を果たしています。
ここを訪れた一人ひとりが、地域の文化に触れて生きるエネルギーを取り戻し、ワクワクしながら新たな「関係者」となっていく。そんな豊かな未来の広がりを感じさせる、素晴らしいイベントとなりました。

●INFORMATION

47えんぎもの展 TALK SHOW TALK 1| 「えんぎもの」から考える、“その土地らしいデザイン” の湧き上がり方
開催期間  2026年1月25日(日)13:45~15:15(13:15開場)
開催場所  渋谷ヒカリエ8F 8/COURT
主催    D&DEPARTMENT PROJECT