3名の若手作家による 現代木彫の新たな表現
Hikarie Contemporary Art Eye vol.17 若手作家による木彫表現。再考と可能性。
「3つのフォーメーション‐啄木鳥の鳴き声は聞く事が出来るのか。」
2025年2月 1日(土)から9日(日)まで「COURT」で開催された、日本の美術シーンを新しい視点で切り開く「ヒカリエコンテンポラリーアートアイシリーズ」。小山登美夫氏が監修する第17回目となる本企画展は、日本に脈々と続く木の彫刻をテーマにしています。
日本における木彫は、神像や仏像などの彫刻に加え、木造建築や装飾などに用いられ、その伝統的な技法が今に受け継がれ、現代においても重要な表現方法として進化し続けています。本企画展では、現代美術における木彫表現方法の可能性について、彫刻家として活躍する三沢厚彦氏が特に注目する3名の若手木彫作家(中澤瑞季さん、成島麻世さん、古西穂波さん)を選出し展示されました。
また、トークイベントでは、小山登美夫氏、三沢厚彦氏とともに、3名の作家が登壇し、木彫の魅力や作品の解説、制作への想いなどについて語られました。
こちらは中澤瑞季さんが2024年に制作した「宙を向く面と目」です。
トーテムポールを連想させる作品は、下部に複数の四角い箱型の木枠が連なり、上部には人物の顔や手足、縄や葉のようなモチーフが配置されています。顔料を用いたペイントや髪の毛のような繊維、ポップな色合いの布地、セラミックなど、木とは異なる素材が用いられ、それぞれの特性を活かしながらバランスを保つように構成されています。
中澤さんは、「両親が建築関係の仕事をしており、自宅の内装も全て木材で作られた環境で育った経験から、木材の建築的な構築性や素材への親しみが自然と身についていた」と話します。自然界にはほとんど存在しない「垂直」という要素に、人が持つ本能的な構築欲や創造性を感じ、作品の中に意図的に垂直性を取り入れることで、人工物と自然との対比や人間の存在を表現しています。
こちらは、2022年に制作された「園」という作品。
作品本体と、作品を設置する台座についても、双方が境目なく関わり合う表現を試みています。
こちらは、古西穂波さんによる「surface of water」(2021年)です。
水中に溺れていく人物を表現したこの作品は、古西さんが口伝えに聞いた実話に基づいており、「歴史的な積み重ねや記憶の断片を、木材という媒体を通じて具現化している」とのこと。
幼い頃から「影」に興味を持っていた古西さんは、作品づくりにおいて光と影の関係性や空間の奥行きを活かした立体表現に注力しています。「本来は、実像があって影ができるということを当たり前に考える中、影が存在することで実像の存在を認識し、その相互関係を表現している作品」と三沢氏。
力強さを感じるこちらの作品は、成島麻世さんによる「Relief-蟲脳」(2023年)です。成島さんは“今までに見たことがないものを造形する”ことを探求しており、人が認知できるものには限界があるとし、その矛盾性を具現化する挑戦を続けています。
「例えば幽霊やモンスター、宇宙生命体のように、実態は分からないけれど、カマキリの腕のような既知の要素を組み合わせることで認識可能な形態を作り出しています」と成島さんは語ります。「Relief-蟲脳」では、平面の木板に凹凸で装飾するレリーフ技法を施した上に、作為的に岩絵具のピグメントを施すことで、二つの印象を重ね合わせています。
放射状に広がる支持体と、レリーフを施した長方体の彫刻作品が共存するように佇む最新の作品は、まるで果実の中に隠れた種子のような雰囲気を感じさせます。レリーフは通常建築装飾の一部として制作されることが多いのですが、成島さんはレリーフ作品自体を自立させ、オブジェのように成立させる表現を試みています。
成島さんは、「現代社会において即時性が求められる一方、木彫造形にはデジタル技術では得られない手作業ならではの偶然性や、節や木目など自然素材であるがゆえのコントロールの不確かさがあることが木彫の魅力」と語りました。
「COURT」というオープンなスペースで開催された木彫作品展では、現代における木彫の多様さに加え、空間と作品の関係性についての作家の考察や、時間の蓄積を感じられる木彫の魅力、またそれぞれの作家が伝統と革新のバランスを模索しながら追求した新たな表現に触れることができました。
○INFORMATION
Hikarie Contemporary Art Eye vol.17 若手作家による木彫表現。再考と可能性。
「3つのフォーメーション‐啄木鳥の鳴き声は聞く事が出来るのか。」
中澤瑞季/成島麻世/古西穂波
会 期 2025年2月 1日(土) - 2025年2月 9日(日)
時 間 11:00 - 20:00 最終日は18:00まで
場 所 8/COURT
料 金 入場無料
主 催 小山登美夫ギャラリー








