MEME(ミーム)とは、生物学者クリントン・リチャード・ドーキンス が提唱した、社会習慣や文化が、再現・模倣を繰り返して継承され発展し、受け継がれていく様子を、複製・伝達・変異・淘汰を繰り返して、進化する生物の遺伝子に例えた文化的単位(アイデア、価値または行動パターン)の学術用語(造語)です。
本展覧会は『アートに見る[ミーム]|書・版画・日本画に見る伝統+技術+現代性の探求』と題し、美の表現技法として長い歴史を持つ「文字・書」「版画」「日本画」という領域から、技術を受け継ぎ、工芸主義的な表現の精密さを維持しながらも、時代による淘汰に耐え得る「文化的遺伝子」を合わせ持った、新たな美の表現へ高めようとする意図が感じられる作品にスポットを当て、現代における書・版画・日本画の定義や認識をあらめて考える機会となることを目的として開催します。
〈作家ステイトメント〉
宮村弦|書・墨象
[イメージラング]
例えば、、私たちが使っているよりも、もっともっと美しい文字を使う文化があったなら…。
もし、文字が実用を離れてもっとグラフィカルものであったなら…。
イメージラングは、私なりの「美しい言葉の姿(文字)」です。
墨の表象に意味符号としての役割を与える仮想。
それは、極めて単純な墨の暗号。
ただ言語体系と墨象を結びつけるだけの最も単純な方法で、墨の表象に意味を宿す試みです。
野嶋革|版画・銅版画
銅の板に刻まれた無数の小さな穴、これらが生み出すインクの深淵な黒と淡くも瑞々しいその階調の豊かさに私はとても惹かれています。銅版画というものにふれてから10年が経ちますが、知れば知るほどにその表現の深さに驚かされ、学ばされ、ますますその魅力に引寄せられているようです。
今展では、これまで取り組んできた作品の中から自然をモチーフとした6つのシリーズを紹介したいと思います。作家が風景の中で感じる“光”と言ったものに対してどの様に向き合い、どのように描きだそうとしているかを観ていただき、現代における風景表現の可能性を提示できればと思います。
吉田翔|日本画・墨画
得意とするモチーフの写実的表現は、少年期から培われたスケッチの技術や、さらにそれを補うために撮られたモチーフの膨大な写真資料により完成されます。コントラストの強いモノクロームの絵画作品は、深い漆黒が墨(松煙墨、石墨)、眩しい白が胡粉(蛤貝、板甫牡蠣)によって、絵絹(シルク)に描いており、古くから伝わるの技法材料を用いて制作しています。近年では京都の表具師と協力し、伝統的な表装スタイルを保ちつつも、モダンにアレンジした掛軸などに作品を仕立て発表しています。
また、モノクロームに拘って描く理由は、東洋絵画のスタンダードであった墨絵の復権というヴィジョンもあるからです。作品はペインティングを主体としており、ドローイングを主体とする従来の水墨画の描き方とは一線を画していますが、墨色を基調とした絵画作品である点について同じです。私は、文化を昇華させた伝統を視野に持ち、日本的な品格や表現を保ちつつ、現代的なアプローチでの新しい美意識の反映を目指しています。
Clinton Richard Dawkins, an evolutionary biologist, invented the term MEME, referring to “genes of culture”. That is, just as genes of earth’s creatures have evolved through continuous reproduction, transmission, mutation, and natural selection, human customs and habits as well as culture are transmitted, developed and handed down to future generations through reproduction and mimicking.
This exhibition, entitled, MEME in Art – Exploration of Tradition, Technique and Modernity in Calligraphy, Copperplate Prints, and Japanese Painting, highlights the MEME of the works by young artists who have mastered the traditional techniques of scriptures and calligraphy, copperplate prints, or Japanese paintings, all of which have its long history and tradition. Their works are embodiments of ambition for innovative expression of their artistic aestheticism, the representation of their MEME that can survive the natural selection while still maintaining extremely details of expressions as seen in traditional artisan work. We hope that this exhibition will be a new opportunity to reconsider the definitions and recognition of modern calligraphy, woodblock prints, and Japanese paintings.
宮村弦 MIYAMURA Gen
1980年静岡生まれ。新潟大学大学院書道科修了。奎星会(無鑑査)。文字造形を離れ書の美意識を純粋に提示する方法を模索し、多様な墨象表現を発表。「現代書“以後”」世代の作家として、独自の視点で書の美意識を背景にした新しいイメージを開拓し、近年は、言語体系と墨象表現を関連付けた「イメージラング(Dotcode / Linear code)」を発表している。「毎日書道展」毎日賞、「奎星展」特選、他、受賞多数。
Web site: gen-m.jp
野嶋革 NOJIMA Arata
1982年 滋賀県生まれ。京都市立芸術大学院美術研究科修了。東京芸術大学院美術研究科在籍中。日本版画協会 準会員。主な実績として、「版画展」第78回日本版画協会賞、第80回記念賞。「山本鼎版画大賞展」 第4回、5回ともに優秀賞。他、受賞多数。東京、大阪、京都で個展、グループ展を多数開催。またイタリア、イギリスへの留学、アメリカやタイ、韓国での展示等、海外での活動にも精力的である。
Web site: www.arata-nojima.jp
吉田翔 YOSHIDA Syoh
1984年愛知県生まれ。成安造形短期大学美術工芸学科美術コース日本画クラス卒業。大阪成蹊大学芸術学部美術学科絵画表現領域日本画工房研究課程修了。主な個展に2008年「Distant Promise -遠い約束-」(海港城美術館・香港)、2009年「Insphere - つつみ込まれるように - 」(イムラアートギャラリー)、2011年「White Lake -白い湖-」(JR大阪三越伊勢丹)。主な実績に「第11回岡本太郎現代芸術大賞」入選、「第5回東山魁夷記念日経日本画大賞」入選など。
Web site: www.syohyoshida-archives.com