加速する主観の都市における「ちぐはぐな身体」の彫刻
都市はひとつではない。
無数の主観、認知、思想によって歪められた世界が、並列しながら重なり合っている。
情報と資本の流通が加速し、あらゆる視点が交換可能になった現在、かつて都市を支えていた「大きな物語」は力を弱めた。代わりに現れたのは、互いにずれた輪郭を持つ複数の世界である。
そのとき、私たちの身体はどこにあるのか。
都市−社会−世界はグローバルな速度で接続され続けている。しかし身体は常に「ここ」にしか存在できない。触覚、重さ、距離といった極めてローカルな感触の中でしか、世界を実感できない。
本展《不完全な日常》では、このスケールの不一致を「ちぐはぐな身体」と捉える。
板垣竜馬、宇留野圭、大塚諒平の三者は、それぞれの方法でこのズレを彫刻として物質化する。彼らの作品は完成された像ではなく、均衡を取り続ける不安定な構造、落下寸前で静止する力、触れれば崩れそうな緊張として存在する。
都市空間に潜在する緊張とは、物理的な構造だけではない。それは無数の主観が交差し、互いに歪み合いながらも統合されない状態そのものである。制度の気配もまた、単一の秩序ではなく、並列する視点が重なりながら生む圧力として現れる。
彫刻はその歪みを一時的に可視化する装置となる。
完成された都市は存在しない。存在するのは、常にずれ続ける現在だけである。