Hikarie

SHIBUYA WANDERING CRAFT 2017 ECO

8.3 thu - 8.29 tue 11:00-20:00 入場無料

⑨ エコアドベンチャーな活動家たちのトーク

エコアドベンチャー展 トークセッション⑤

8月20日のトークセッションのテーマは、林業。登壇者は、奈良県吉野郡川上村から林業の魅力を発信する鳥居由佳さん、世界の森林の状況を伝えながら木材をどう活用するのか、経済の観点から考える水谷伸吉さんのお二人です。
鳥居 由佳さん (とりい・ゆか)
きれいな海で泳ぐのが好きで、沖縄の竹富島を何度も訪れるうち、大好きな海を守るために山をつくり、育てることに関わろうと林業の世界へ。吉野郡川上村に移住し、林業界に関わりながら、持ち前の行動力と話術を活かして、林業の現状を伝えている。
水谷 伸吉さん(みずたに・しんきち)
more trees事務局長。大学在学中、マレーシアの熱帯雨林の伐採現場を見て衝撃を受け、インドネシアでの熱帯雨林再生プロジェクトを経て、坂本龍一さん率いる「more trees」に参画。都市部から木をどう活用するかを考える。
鳥居さんと水谷さんは、2年前からのお知り合い。森林について考えるトークセッションで、水谷さんがファシリテーターを務め、鳥居さんがゲストスピーカーとしてお話しされたのが初対面でした。お二人は、どんなきっかけで林業の世界へ飛び込んだのでしょうか?

この海を守るために、私にできることは何やろうか?

きれいな海で泳ぐのが好きで、沖縄の竹富島を何度も訪れるうち、「この海を守るために、私にできることは何やろうか」と自問した鳥居さん。山をつくり、育てることがきれいな水を生み出すシステムだと気付き、森林ボランティアを経て林業の世界へ。その後、全国の林業を営む仲間との出会いを経て奈良県吉野郡川上村へ移住。日々、地元の林業家にお話を聞きながら、独学で林業の道をひた走っています。2014年には、自ら原木の丸太を購入! 1本目は杉なので「おすぎ」。2本目はヒノキの「ピーコ」、3本目に松を購入予定で、すでに「マツコ」と命名。今回、CUBEで開催中の「とり展」*には、樹齢120年の吉野ヒノキ「ピーコ」を10tトラックで運びこみ、展示しています。
*とり展
詳細は、ページ下部のColumnをご参照下さい

森林を取り巻く実情を知ってほしい

水谷さんは、学生のときにマレーシアの熱帯雨林の伐採現場を見て衝撃を受けたことがきっかけでした。「2015年に大規模な森林火災がインドネシアであって、その煙害(ヘイズ)はpm2.5よりも大きな公害となりました。マレーシアやシンガポールでは大きく報道されましたが、日本ではほとんど流れなかったんです。そんな森林を取り巻く実情を知ってほしいと思いました」と、水谷さん。たとえば、シャンプーやラクトアイス、ポテトチップスは、油ヤシから採れるパームオイルからできています。そのニーズに応えるために、世界的に乱暴な森林伐採が進んでいるのです。
5年間インドネシアで熱帯雨林の保全活動をし、坂本龍一さんのプロジェクト「more trees」に参画。東京から全国と提携し、都市と森をつなぐ仕事をしています。「日本の木材は、70%を輸入に頼り、ほとんど輸出できていません」と、水谷さん。事業の一環として、宮崎県の杉を使い、地元の木工職人の協力を得て、建築家・隈健吾さんとともにインテリアとして通用するプロダクト「つみき」を制作。インスタレーションとして東京ミッドタウンで展示、パリのギャラリーでの発表を経て、ルーブル美術館のパーティに採用されました。「パリへ2000個を運び、3人で3日がかりで設営しました。1日だけのパーティでしたが、何より宮崎県の皆さんが喜んでくれたことがうれしいです」(水谷さん)。飲食店やオフィスなどでもっと空間に木を取り入れてもらおうと、パリの和食レストランやロンドンの寿司店へ、国産の木の輸出を後押ししているそうです。

誰でもできるけど、誰もしないことをしてみよう

「木を嫌いという人はいないけれど、家まで持ち帰る人はなかなかいない。だから丸太を買ってみたんです。誰でもできるけど、誰もしないことをしてみようと思って。今回も、ピーコを持って帰る算段はしていないです(笑)」と、鳥居さん。木は、第一次産業の中で、唯一口にしないもの。食べ物なら、作った人や添加物の可否を気にするけれど、木の産地を気にする人はあまり見かけません。「たとえば、ピーコは吉野のおっちゃんが製材しています。本当は誰がどうやって木材にしたのかわからないグレーゾーンの木も多い」と、水谷さん。

木材バブルを知らないところや、世代交代したところは新しいことに寛容

吉野杉は節がなく水漏れしないため、かつてはそのほとんどが酒樽となっていました。「それが山の人のプライドであり固定観念。私は、ネガティブ発想が嫌い。たとえば、CUBEを訪れてくれた一般の方が「京都の北山もあかんからねぇ」っておっしゃるんですね。山の人がネガティブ発言をすると、一般の人はそのまま受け止めてしまう。しんどくても楽しさがあると主張しないと、誰も応援してくれない」(鳥居さん)。
鳥居さんが暮らす川上村は、中山間地域にありながら、日々食べる米を作る田んぼがないそうです。それは外貨で賄ってきたから、と鳥居さん。「吉野や北山など歴史があるところほど、「昔はよかった」といいがち。木材バブルを知らないところや世代交代したところは、新しいことに寛容な気がします」と、水谷さん。

ライバルはプラスティック

お父さんが植木屋さんをしている鳥居さん。木造の家で育ち、鍵は内ねじ。木の雨戸は重く、すき間があって寒かったそう。子どもの頃から、柱に画びょうを刺そうとすると、お父さんに怒られたそうです。「森林ボランティアに参加するとき、のこぎりを借りたくて話を切り出したら、案の定怒られました。「生きている木を切る意味を知っているのか!」と。私ではなく、私に切られる木の心配をしていたんです(笑)」。木の家で育ったことは、今にして思えば原体験だった、と鳥居さん。
林業は、かつて住宅の着工件数と一蓮托生でした。家が建てば、木が売れる。今は内装に使われているけれど、木の家のイメージは抱きにくい、と水谷さん。「人口が減り、空家が増えている今、家ではなくプロダクトにして売ったり、海外のマーケットを開拓していくことが必要です。ライバルは、かつて木で作られていたものにとって代わったプラスティックなどの異素材。コストでは勝てないので、ぬくもりや情緒が戦うポイントですね」(水谷さん)。農業学部出身者が多い業界で、経済学部出身の水谷さん。モラルからというより、経済の観点で熱帯雨林の保全を捉えるそうです。「ボルネオ島の奥地に行くと、製材所の人たちの家族が見える。それだけ伐採に頼って生きている人もいるということ。人と森林の関わり方は、世界の課題ですね」(水谷さん)

今後の展望は?

地域おこし隊での活動や移住を経て、今までハイペースに過ごしてきた鳥居さん。山のためにという思いを一度リセットして、自分が楽しい!と思える体験を積んでいきたいそうです。ワクワクすることを積み重ねていると、自ずと声がかかるのだそう。「東京で話をしたいなぁと言っていたら、今ここでこうしています。村だと何本木を売ったかが勝負で、今日お話しししたようなことはなかなか理解してもらえない。やりたいことも、しんどいことも、発信することで気付けるし、出会える。自分のためが、いつの間にか人のためになっているなと思います」。一方で、今、生きている人からどれだけのことを学べるかという点ではとても焦っている、とも。「森林の未来を考えている若い人たちがたくさんいるので、20年、30年後が楽しみです」(鳥居さん)
「短期的には、つみきにつづく新作を生み出したいですね」と、水谷さん。設立10周年の今年9月に、パリでの新作発表を控えているそうです。「日本の木がスタイリッシュなことを、日本の消費者にこそ知ってほしい。当たり前のように、スマホでぽちっと国産の木の製品が買えるほど、生活に溶け込んでいったらいいですね」(水谷さん)。長期的には、合法な木材を使って行こうという「クリーンウッド法」を整えていきたい、と締めくくって下さいました。

「とり展」の道のり

CUBEで開催中の鳥居由佳さんの企画展。準備期間は3週間! きっかけは、6月末に渋谷ヒカリエ 8/ で開催された「地方創成ガールズトーク」というトークイベントに鳥居さんが登壇したことでした。「日本全国スギダラケ倶楽部(以下、スギダラ)」という約2,000人のグループのメンバーで、空間デザインを手がけるパワープレイス株式会社の若杉さんらと相談するなかで、原木丸太を展示して、絵を描いて企画展をやろう!ということになり、原木丸太の「ピーコ」を10tトラックで新木場まで運び、ヒカリエへ。ヒカリエはシアターを併設しているため、大きな舞台装置に対応したエレベーターがあり、なんとか搬入できたそうです。
スギダラとパワープレイスの協力のもと、CUBEの壁にカッティングシートを貼って。鳥居さんの旅仲間や会場の前を通りかかった小学生も参加してくれて、快調に進んだそうです。鳥居さんの描いた100点のイラストは、9種のTシャツにもなりました。キャッチコピーの「とりい・とりまく」は、この企画に関わった仲間で案を練ったそうです。「いろんな人に助けられて、開催できました。山から海までつながっているという当たり前のことを、みんな忘れているだけ。その入口がとり展なんです」(鳥居さん)
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